熱を加えると甘くも辛くもなるタマネギの謎

タマネギといえば涙が出ることで知られる。これは、syn-プロパンチアール-S-オキシドによるもので、この物質は揮発性ガスである。切ったり刻んだり、或いはスライスするなどしてタマネギの細胞を破壊すると、この物質が揮発性ガスとして発生し、目や鼻の粘膜を刺激する。涙が出るのはそのためである。具体的な生成過程はこうだ。タマネギの細胞破壊によって酵素であるアリシンの作用でスルフェン酸が作られ、これがsyn-プロパンチアール-S-オキシドへと変化させられるわけだ。 タマネギの辛味は品種によって異なるが、基本的に晩生ほど強くなる。大量に摂取すれば辛味から汗も出る。これは味覚性発汗というもので、通常の温熱性発汗とは異なる。このように辛味から汗まで影響するタマネギだが、熱を通すとどうだろう。炒めたり煮たり、熱を加えると逆に甘くなってしまう特性があるのだ。しかもその甘さはイチゴに匹敵するとまで言われている。 なぜ甘くなるのか。それは熱を加えることによって辛味成分を生成する酵素作用が阻害され、それまで隠れていた甘み成分が増えるからだ。また炒めることによってメイラード反応を起こしメラノイジンという褐色色素が作られる。この物質はそれ自体がフリーラジカル(活性酸素)であるが、抗酸化作用を持つとも言われている。これは、DPPHラジカルという人工的に作られたラジカルへの消去能が上昇したとする報告例があるからだ。 炒めれば甘くなり、抗酸化作用から癌抑制の可能性を持つタマネギだが、炒めることによって失われる成分もある。そう、アリシンだ。この物質は生のタマネギに存在するものなので、炒めると消滅する。アリシンには血栓の発生を抑制する作用があると言われており、つまり血液をサラサラにする作用が加熱によって失われるわけだ。つまるところ、加熱しても生で食べても、一長一短ということなのだろう。これはどんな食材でも当てはまるのかも知れない。
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