近頃増えている食物アレルギーはヘルパーT2細胞が原因だった

食物アレルギーといえばかつて、卵や牛乳、エビ、カニなどが多かった。最近ではこれらに加え、アワビやイカ、バナナ、松茸、もも、リンゴといったものまで聞くようになったのである。商品のラベルには栄養成分の他、「製造工場で卵を含む製品を生産」「~と同じ製造ラインで」「原材料にはアレルギー物質が」といった言葉も多々見られる。面白いものでは、遺伝子組み換えであれば義務表示なのだが「遺伝子組換えではない」は任意表示であるにも関わらず多く見られる。それだけアレルギーや健康の意識が高まった証拠だろう。

食品衛生法

ところで食品衛生法によって規定されている特定原材料をご存じだろうか。これは現在、タマゴ、ソバ、エビ、カニ、小麦、ラッカセイ、乳の七品目である。これらは容易に判別可能な食品以外は、義務表示である。加えて特定原材料に準ずるものでは現在、アワビ、イカ、イクラ、クルミ、ゴマ、カシューナッツ、リンゴ、オレンジ、バナナ、キウイフルーツ、桃、豚肉、鶏肉、牛肉、鮭、サバ、大豆、松茸、山芋、ゼラチンの二十品目であり、いずれも任意表示である。また、アレルギー発症の高い順から、タマゴ、乳製品、小麦、甲殻類、果物、ソバ、魚類、ピーナッツというものになっている。

T細胞とは

近年、若者の食物アレルギーが増加しているとのことだが、これはT細胞が関係していると言われている。T細胞とはリンパ球の仲間であり、その作用からヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)、制御性T細胞、γδT細胞、サプレッサーT細胞に分類される。これらは今後の研究によって変わることもあり、サプレッサーT細胞などはその存在自体が疑問視されている。γδT細胞に関してもそのメカニズムが十分解明されていない。とはいえ、食物アレルギーに関係しているのはこの内、ヘルパーT細胞と言われている。T細胞は成熟した場合、CD4かCD8を発現している。このCD4とCD8はT細胞表面に見られる受容体であり、ヘルパーT細胞はCD4を発現している。一方、CD8を発現したT細胞は、キラーT細胞となる。ヘルパーT細胞には、更にTh1とTh2、Th17細胞の三つの集団がある。このうち、食物アレルギーに深く関与しているのはTh1とTh2だ。この二つのヘルパーT細胞は通常、バランスをとって作用している。ヘルパーT1細胞(Th1)は、細菌やウイルスの侵入があれば司令を出す機能を担い、ヘルパーT2細胞(Th2)はその他の異物を担当する。しかし、体内へ侵入する細菌やウイルスが減少するとTh2が増加し、Th1が減少する。そうなると勢力を増したTh2は体に侵入するものすべてを異物と見なし敵視するため、通常の食物であってもアレルギー反応を起こすというわけだ。

食物アレルギーのメカニズム

食物アレルギーは、もともと人間の持つ免疫機能の発動によるものだ。生活習慣の偏りからTh1とTh2の均衡が崩れてTh2が増えてしまうと問題が起こる。つまり、体内へある種のたんぱく質が侵入すると、リンパ細胞がそれを異物と判断する。そしてリンパ細胞の命令によって攻撃行動にうつる。そうするとリンパ細胞によって抗体が生成され、それが肥満細胞へ取り込まれる。そして粘膜へタンパク質が接触すると、肌が腫れてくる。これは異物を排除しようとするためで、その結果、発疹などを生じて肌が盛り上がり、痒みなどを伴うというわけだ。 近年多く見られる食物アレルギーは、こうしたメカニズムに起因したヘルパーT2細胞によるものと考えられている。しかし、Th2に偏れば食物アレルギーを引き起こす可能性が高まる一方で、Th1に偏ると自己免疫疾患に陥りやすくなるとも考えられている。そこでTh1とTh2のバランスを維持する必要がある。ヘルパーT細胞の特徴として、Th1はグラム陽性菌に、Th2はグラム陰性菌に影響されると考えらているので、このことからビフィズス菌やラクトバチルス菌といった乳酸菌、納豆菌などのグラム陽性菌を含んだ食品の摂取がTh1を増加させるのに役立つとの指摘がなされている。一方、グラム陰性菌は大腸菌など血中や尿路系に侵入しなければほとんど無害なものもあるが、多くは病原体となる。またグラム陽性菌であってもボツリヌス菌など食中毒を引き起こすものもある。

補足

尚、本文中で使っている「肥満細胞」とは造血幹細胞由来の細胞であり、一般に言う「肥満」とは異なる細胞である。哺乳類の粘膜下組織や結合組織などで見られる細胞のことを言う。炎症や免疫反応などに関わっており、その膨れた形状が肥満を彷彿させることから肥満細胞と呼ばれるようになった。
スポンサーリンク